「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」
岩崎 夏海 (著)
内容紹介
公立高校野球部のマネージャーみなみは、ふとしたことでドラッカーの経営書『マネジメント』に出会います。はじめは難しさにとまどうのですが、野球部を強くするのにドラッカーが役立つことに気付きます。みなみと親友の夕紀、そして野球部の仲間たちが、ドラッカーの教えをもとに力を合わせて甲子園を目指す青春物語。家庭、学校、会社、NPO…ひとがあつまっているすべての組織で役立つ本。
経営学の父とも称される「ピーター・ドラッカー」の著書「マネジメント – 基本と原則 [エッセンシャル版]」を題材にした本。
小説、ビジネス書というより、ドラッカーが気になり始めた人に向けた導入ガイドといえそう。
個人的に良かったのは序盤。
事業を定義する上での顧客の見極めについて。
ドラッカーは、下記のように説く。
自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないと思われるかもしれない。
鉄鋼会社は鉄をつくり、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。
しかし実際には、「われわれの事業は何か」との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかりきった答えが正しいことはほとんどない。
企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。
顧客である。
顧客によって事業は定義される。事業は、社名や定款や設立意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする要求によって定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。
したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。
これを小説では、事業=野球部として考察していく。
この考察シミュレーションが秀逸。
一見、事業や顧客とは無関係に思える野球部を例に取ることで、事業の見極め方をわかりやすく解説している。
極めつけは、キャデラックの引用。
1930年代の大恐慌のころ、修理工からスタートしてキャデラック事業部の経営を任されることにいたったドイツ生まれのニコラス・ドレイシュタットは、
「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」と言った。
この答えが破産寸前のキャデラックを救った。わずか2、3年のうちに、あの大恐慌にもかかわらず、キャデラックは成長事業へと変身した。
「顧客は誰か」
「顧客の求める「価値」とは」
顧客がわれわれの事業を選ぶとき、「何」に価値を見いだしているのか!?
この思考を気づかせてくれるだけでも、この本を読む価値はあると思う。
実際、主人公が野球部の定義と顧客を見極めるころには、自分の頭も顧客の考察でフル回転していた。
サービスを作る人、商売をする人、ブランドを運営する人に、大きな「気付き」を与えてくれるだろう。
中盤以降は、組織運営、人材育成的な話になり、野球部と絡めるには強引なところも出てくる。「マネジメント」からの引用も普通な感じとなり、知的興奮は少ない。
それでも、最後まで楽しくサクッと読めてしまうおもしろさはある。
しかし、表紙や挿絵のイラストは抵抗あるなー。
電車の中で挿絵が出ると、恥ずかしいったらありゃしない。
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